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(´・ω・`)ぼくとじじい( ФωФ) のようです

1 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:26:06.85 ID:3NCqnlKz0
じじいとぼく



3 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:27:28.26 ID:3NCqnlKz0
あのじじいに出会ったのは、僕が小学五年生の頃だ。

クラスメイトにいじめられて、
じじいの家のみかんを採ってこいと言われ、家に侵入した時だったと思う。

家の持ち主であるそのじじいは
近所の子供達にとっては雷のように恐れられており、
一度じじいの家に悪戯をしようとすると、
まるで光のような早さで側まで駆け寄り、子供を竹箒ではったおし、
仲間を置いて逃げ出そうとする子供の首根っこを引っ掴み、
そしてしわがれ声を張り上げ、腹に響くような重低音で子供達を叱る。

そんなじじいの動きに由来しているらしかった。


そのじじいは何年も前からそこに住んでいるし、
近所の子供達もじじいの家に悪戯を仕掛けたら何が起こるかはよーくわかっていた。

しかし、じじいに悪戯を仕掛けたという事実は一種のステータスにもなり、
それに成功した場合、仲間から一気に勇者に祭り上げられる事は間違なかった。
なので、じじいの恐ろしさを知っていながら、戦いを挑む猛者は後を絶たなかったのだ。

その殆どが、じじいの竹箒によりこてんぱんにされた後、親にこっぴどく叱られる事になったのだが。




4 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:30:31.97 ID:3NCqnlKz0
次第にじじいは、近所のおっかない爺さんというレベルから、
捕まったら食われるとまで言われ、今まで以上に恐れられるようになった。

悪戯をしようとも思わないおとなしい子供も、
知らず知らずのうちに張り巡らされた子供ネットワークによってじじいの情報を得ており、
そのネットワークを通じて流れていったじじいの情報は尾ひれがつき背びれがつき。

怒ると角が生えるだとか、目に変な傷があるのは昔ヤクザだったからだとか、
そんなうわさ話のせいで、いつの間にかじじいは本物以上に恐ろしい存在になっていったんだと思う。



僕はそのかみなりじじいの話を、転校して来たこの小学校で聞いた。
聞いたというよりも、盗み聞きしたと言った方が正しいか。

家に帰る時にじじいの家の前を通るのだけれど、
その話を聞いてからは、何も悪い事はしていないのに異様に警戒して通るようになった。


そういう風に常に警戒し続けたため、かみなりじじいを生で見る事は中々無かった。
たまに、悪戯をした子供を追いかけて塀の外へ出てくるのを見た事があるぐらいだ。

だが、そうしてなるべくかみなりじじいを避けていた僕の努力もむなしく、
クラスメイトの手により僕はじじいに出会わざるを得なくなってしまった。



5 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:33:15.96 ID:3NCqnlKz0
  _
( ゚∀゚)「ショボンー」

(;´・ω・`)「な…なに?」
  _
( ゚∀゚)「お前さー。あのかみなりおやじ知ってる?」

(;´・ω・`)「う、うん」
  _
( ゚∀゚)「俺急にさ。あそこの庭にあるみかんが食べたくなっちゃったんだよねー」
  _
( ゚∀゚)「だからいきなりで悪いんだけど、あのみかん取って来てくれないかな?」

(;´・ω・`)「え……」
  _
( ゚∀゚)「真っ向勝負を挑んでも絶対無理だからさ! じじいが見てない隙に忍び込んでこいよ!」

(;´・ω・`)「無理だよ……。できっこないよ……」
  _
( ゚∀゚)「んだよショボン! あれ取って来たらお前の体育着も返してやるからさ!」

(´・ω・`)「……」



6 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:37:11.07 ID:3NCqnlKz0
当時の僕は、転校が多かったせいか全体的に淡白な考え方をしており、
仲間なんか煩わしいと、一人で行動する事が多かった。

仲良くなってもすぐに転校の繰り返し。
だから最初から仲よくなる努力をしたって、すぐに転校でその努力もチャラになってしまう。
そんな思いから次第に僕は、友達を作るどころかクラスメイトと話す事すらしなくなっていったのだ。

仲間意識が強く、いつも友達とつるんでいるやつから見れば
いつも一人で義務的な事しか話さない転校生なんて
すかしてるやつと見られたり、格好つけてると思われてもおかしくないだろう。


背も小さく、泣き癖もあり、
筋力が弱かった事も原因の一部にあると思う。

僕はクラスの大柄ないじめっ子に狙われ、
上履きを隠されたり、体育着袋を木の上に放り投げられたり、
決して幸福とは言えない少年時代を送っていた。

今考えると、いじめというよりちょっかいとかに近かったのかもしれない。
だけどその時はそれが本当に嫌で嫌で、毎日学校に行くのが苦痛だった。
けれど親に心配をかけさせる方がもっと嫌だったので、
仕方なく毎日学校に通っていた。今思い出しても嫌な記憶だ。

  _
( ゚∀゚)「よし! じゃあ帰りに掃除当番終わったら校門の所来いよ! 逃げんなよ!」



7 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:38:50.07 ID:3NCqnlKz0
そんなこんなで、僕はいじめっこその他数人にはやし立てられ、
帰りの会が終わった後に涙目になりながら
帰宅途中にあるかみなりじじいの家へ向かった。

いじめっこ達のランドセルを全部持ち、涙を拭う事も出来ずにとぼとぼと歩く。
今思い出しても泣きそうになる。あの時程、時間が長く感じられた事もなかった。


かみなりじじいの家の前についた。
僕は家の門を地獄の釜への入り口のような気持で見る。
今からでも逃げれないかな、なんて思ったが、こう囲まれていてはそれも無理そうだった。

  _
( ゚∀゚)「うーし。じゃあ、目標のみかんはアレだからな!」


いじめっこは庭の奥の方にある一本の木を指差す。
塀の上から頭を出した木には、たわわに実ったみかんが何個か見えた。

8 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:40:50.50 ID:3NCqnlKz0
僕は荷物を降ろし、泣きながら塀をよじ上る。
菱形の穴に足を駆け、上半身を乗り上げたときだ。

ちょうど、庭いじりをしていたじじいと目が合った。



(;´;ω;`)

( ФωФ)

(#ФωФ)「……こらぁぁぁぁぁぁ!!!!」



話に聞いた通りだった。

とても老人とは思えない動きで立ち上がり、門へ向かう。
じじいの怒声は腹に響き、僕は思わず手の力を緩めてしまい、塀の下に情けなくぼとりと落ちた。
いじめっこ達は口々に何か喚きながら逃げていく。

じじいに僕を怒らせて楽しむつもりだったのだろう。最初からわかっていたけど。



12 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:45:56.24 ID:3NCqnlKz0
(#ФωФ)「なにをしていた!」

(´;ω;`)「ひ……」

(#ФωФ)「答えろ! お前は何をしようと思って……」


そこまで言うと、じじいは腕を組んで僕の顔をまじまじと見つめて、急に怒鳴るのをやめた。
僕は見つめられたというよりも睨まれたと思い、
まさに蛇の前の蛙のように、そこから動く事が出来なかった。


( ФωФ)「……いつもの悪餓鬼とは違うようだな」

(´;ω;`)「……」

( ФωФ)「そう泣くな。お前も男だろう」



13 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:46:21.91 ID:3NCqnlKz0
じじいは釣り上げていた眉毛を下ろし、僕に手を差し伸べて来た。

少しの間、その黒ずんだしわだらけの手の平を見つめていたけど、
しばらくして僕を起こしてくれようとしている事を理解し、その手に捕まって僕は立ち上がった。


( ФωФ)「見かけない顔だな。どこから来た?」

(´;ω;`)「……」

( ФωФ)「黙っていては何もわからないぞ」

( ФωФ)「まぁいい。話を聞いていたが、お前はあのみかんが欲しかったのか?」

(´・ω・`)「……」

( ФωФ)「……とりあえず、うちに来なさい。お茶を御馳走してあげよう」



14 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:47:53.99 ID:3NCqnlKz0
じじいは着物の裾に手を引っ込ませて、中で腕組みをすると門へ入っていった。
年の割に体格がよく、背筋はぴんと空に伸び、白髪まじりの頭を見なければ普通の男の人のように見える。
そんなじじいの後ろ姿を見ながら、僕は迷っていた。


じじいが見ていない今なら、ダッシュで逃げる事も出来るだろう。
だけど、もしここで逃げてじじいが追っかけて来て箒でタコ殴りにされたら?

今考えると、そんな事するはずは無いと思うのだが、当時の僕はそのような事を真剣に考えていた。
結局導きだした結論は、おとなしくじじいに着いていき、家の中に入る事。


僕は虎の住処に足を踏み入れるような気持で、
生唾を飲み込み、一歩。また一歩と、じじいの家の門の中へ足を踏み入れていった。



16 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:50:51.78 ID:3NCqnlKz0
( ФωФ)「その辺りに座っていなさい」

(´・ω・`)「……」


家の中に案内された。
以外にも物は少なく、鈍い光沢を放つちゃぶ台の前に正座で座り、辺りを眺め回してみる。

取っ手のはげた桐箪笥が僕の後ろに鎮座しており、
その上には位牌が二つと、淡い煙をたなびかせる線香が置いてあった。
もちろん、小学生に戒名なんて難しい物は読めない。
すぐに興味を無くして、開け放された庭の方に目をやった。

外からは塀に阻まれて見えなかったが、結構色々な植物が植わっている。
花開きそうなひまわりの周りに、しそとヨモギが好き勝手に伸びて光合成をしていた。
オシロイバナや木に絡まったカラスウリのツタなどを見る限り、放っといても育つ植物が多かった気がする。

18 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:53:20.12 ID:3NCqnlKz0
僕をちゃぶ台の前に座らせたじじいは、畳をすりながら台所らしき場所へ向かう。

庭から入り込む夏みかんの香りを嗅いでいたら、台所からじじいが戻って来た。
じじいは小さなお盆を持っていて、その上に麦茶と水ようかんが控えめに乗っかっていた。


( ФωФ)「食べなさい。食べれば元気になる」

(´・ω・`)「……ありがとうございます」


向かい合うようにじじいがちゃぶ台の向こうに座り、自分は麦茶を飲んでいる。
だが相変わらずその目は僕の顔に向けられており、
僕がしようとした事と先程の怒鳴り声とを思い出し、緊張してしまう。

じじいに勧められて仕方なく食べた羊羹の味は、まったくわからなかった。



20 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:54:04.94 ID:3NCqnlKz0
( ФωФ)「さて。お前はさっき何をしようとしていたのだ」

(´・ω・`)「……みかんを……とりに……」

( ФωФ)「大方、あの悪餓鬼に脅されたのだろう。その表情を見ればわかる」

(´・ω・`)「……すいません」


あぐらをかき、じじいは僕に静かに話しかけて来た。
さっきあんなに僕の顔を見つめていたのは、表情を読もうとしていたのだろうか。

僕も羊羹ののった小皿をちゃぶ台に置き、ももの上に握りこぶしを置く。
いつ鉄拳が飛んでくるか。怒鳴り声が僕に向けられるか。

怖くて仕方が無かった。

24 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:58:05.96 ID:3NCqnlKz0
だけど僕の予想に反し、じじいは静かな口調のまま話を続ける。
それに心無しか、怒っているというよりも小さな子を慰めるような感じに思えた。

その時の僕はまだ泣き止んだばかりだったから、じじいも優しく接してくれたのかもしれない。


( ФωФ)「忍び込み、盗もうとする事は道徳的にいけないことだ。それはわかるな?」

( ФωФ)「みかんが欲しいなら、素直に下さいと言いにくれば良いのだ」

(´・ω・`)「……はい」

( ФωФ)「……反省しているようだな。だが、あのような者達に反撃する事もなく屈するお前もいけない」

(´・ω・`)「……」



25 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 00:58:29.34 ID:3NCqnlKz0
( ФωФ)「何もせずにやられるのではなく、何か行動を起こしてみなさい。そうすれば何か変わる事が出来るはずだ」

(´・ω・`)「……そんな事言われても」

( ФωФ)「?」

(´・ω・`)「僕は力も弱いし、そんな事しても倍返しされるのがオチです。反撃なんて出来ません」


僕のようなひ弱な子供が、いじめっ子その他大勢に反撃しても結果は目に見えているだろう。
そう思っていたから、今まで一度もやり返す事は無かった。

じじいの目線から逃げるように目線を畳の方に逸らし、
僕は膝の上の拳を一層強く握った。



28 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:01:52.36 ID:3NCqnlKz0
( ФωФ)「たわけものっ!!」



僕のつむじの辺りに、空気の振動が伝わって来た。

おそるおそる目を上げ、じじいを見る。
大声の割にじじいはそれ程怖い顔はしておらず、
僕の心を見透かすような眸が、こちらを向いていた。



33 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:06:00.87 ID:3NCqnlKz0
( ФωФ)「お前は今まで一度も、反撃しようとは思わなかったのか?」

( ФωФ)「それは、逃げて来ただけだ。一度相手と向き合って見なさい」

( ФωФ)「お前のように体が小さい者でも、やり方次第で相手に勝つ事は出来る」

( ФωФ)「例えば、影が大きく映っているからと言って、その本体が大きい物だと限られるか?」

( ФωФ)「もしかしたら、遠くから光が当たっているだけかもしれないぞ?」

(´・ω・`)「……」


僕の中で、何かが蠢く感覚がした。

よく考えてみろ。いじめっこはいつも仲間と一緒にグループでいる。
一人で行動し、一人でかみなりじじいに悪戯を仕掛ける事はまず無い。
そして、それは僕にも当てはまる。
決まってグループで、僕を囲んで威圧してくる。

そうだ。仲間がいるから虚勢を張る事が出来るんだ。
ならば、一対一で戦いを挑んだらどうなるだろう。

もしかしたら、僕でもあいつに勝てるかもしれない。



36 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:06:56.19 ID:3NCqnlKz0
僕の思いは、透けて顔に表れていたのだろうか。


( ФωФ)「……いい目だ。強い意志が見て取れる」


じじいはその堅物そうな顔を少しゆがめて
僕の頭をくしゃくしゃとなでてくれた。

僕自身の汗の匂いと、夏みかんの匂い。
それに混じってじじいから、湿った土の匂いが漂って来た。



37 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:07:55.42 ID:3NCqnlKz0
それから、僕は度々じじいの家にお邪魔する事となった。

と言っても、僕自らじじいの家に遊びに行く訳ではない。
下校中の僕を捕まえて、じじいが何かと僕を家に招き入れるのだ。


あの一見以来、じじいがそんなに怖い人ではない事がわかったからそこまで拒絶はしなかったのだけれど、
修行と称して木刀素振り100回させるのには閉口した。

いじめっこに追っかけられたりしている時に、僕を家に匿ってくれる事もあった。
お気に入りなのか知らないが、使い込まれた竹箒を竹刀のように扱い、
いじめっ子達に向けて踏み込みながら思い切り振り切る。

振り切る前に、いじめっ子達は口々に文句を言って逃げていってしまったけれど。



39 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:09:56.87 ID:3NCqnlKz0
じじいとの木刀素振りは、主にじじいの家の庭先で行われた。


かんかん照りの太陽の下、素振りが終わるまで休憩は一度も無い。
夏の太陽は植物に取っては嬉しい事かもしれないけど、
人間の僕に取っては体力を奪う物以外の何者でもない。

だけどじじいはへたばる素振りを見せずに、大体僕よりも先に素振りを終え、
後は僕が木刀を振る様子を色々と口出ししながら見ている事が多かった。
汗はかいているようだったけど余り疲れていないらしく、口を開いて息をしているのなんて見た事も無い。

しかも、素振りを150回やった後だというのに。


(#ФωФ)「後47回! 腕を止めずに正しい姿勢で!」

(;´・ω・`)「腕が……筋肉痛が……休ませて下さいよ」

(#ФωФ)「たわけものっ!! 何事も我慢が大事! 臍下丹田に力を込めて! そら!」

(;´・ω・`)「あ、あの。臍下丹田がどこかわからないんですけど」

( ФωФ)「ヘソの下辺り! ここに力をいれればどのような猛者も一発で倒せるぞ!」



40 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:11:19.51 ID:3NCqnlKz0
聞いたときは半信半疑……というよりも殆ど信じようとも思っていなかったけど、
じじいの素早い動きや、いじめっ子に制裁を与える時にげんこつの振りかぶり方を思い出すと、

なるほど納得。

じじいはいつもこのような修行をしているから、子供相手に負けない動きも出来るし、
素早く振る下ろす豪腕で、餓鬼にたんこぶを作り出す事が出来るのかもしれない。


僕はじじいの強さの秘密を知れた気がして、少し嬉しくなった。

強さの秘密というよりは、あのかみなりじじいの家にお邪魔し、
こうして特訓をさせてもらっているという事実が、
誰に自慢する訳でもないけど少し誇らしかった。



41 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:13:37.93 ID:3NCqnlKz0
地獄のような素振りをやっと終えた後は、
縁側で桃を食べたりしながら、じじいに色々な事を教えてもらっていた。

柑橘系の匂いは蚊の嫌いな匂いという事。
ほおずきで笛が作れる事。
朝顔、昼顔、夜顔がある事。

庭に大量に植物が生えているだけあり、じじいは草花の知識が豊富だった。
雑学のような物から、役に立ちそうな物まで。


(´・ω・`)「草花を育てる事が趣味なの? 庭にもいっぱい生えてるし」

( ФωФ)「草花は好きだが、趣味ではない」

( ФωФ)「今は無趣味だが、唯一、写真撮影だけはよく行っていた」

( ФωФ)「草花の写真を撮ったりしたもんだ。桜、ひまわり、紅葉、ふきのとう……」


あごにわずかに生えたひげをさすりながら、じじいは思い出すように目を瞑る。
その瞼の裏には、この庭のように様々な植物が葉を広げているのだろうか。

だけどじじいの言葉に、僕は小さな疑問を覚えた。
写真を撮っていた。という割には、じじいの家に写真は一枚も無い。

カレンダーだって日めくりだから写真が入る隙間も無いし、
位牌はあったけど遺影は置いてない。



44 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:15:27.30 ID:3NCqnlKz0
(´・ω・`)「今はもう撮ってないの?」

( ФωФ)「写真を撮るのは、もうやめたんだ」

( ФωФ)「カメラなんぞ見たくもない」

(´・ω・`)「……?」


じじいは忌々しそうにつぶやき、急に庭に立ち上がるとまた素振りを開始した。
なんだかさっきよりも荒々しく木刀を振るじじいを見て、僕はいい知れぬ不安感に襲われる。
昔何かあったのだろうか。


じじいは一心不乱に数を数える事もなく、木刀を振り続けていた。

まるで何かを消し去ろうとしているみたいに。



46 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:17:28.29 ID:3NCqnlKz0
じじいの秘密特訓を受け続けて、十日あまり。

最近はじじいの匿いもあり余り気にしなくなって来ていたいじめっ子達が、久しぶりに絡んで来た。
僕が学校から帰ろうとしていた、午後三時過ぎ。


体育館裏に連れ出され、僕はいじめっ子に押されて背中から壁にぶつかった。

  _
( ゚∀゚)「お前さ、かみなりじじいに気に入られたからって調子のってんじゃねーの?」

(´・ω・`)「いや……そんな事は」
  _
( ゚∀゚)「知ってんだぞ。殆ど毎日じじいの家に遊びに行ってるの」
  _
( ゚∀゚)「じじいをてだまに取って仲間につける気だろ」
  _
( ゚∀゚)「そういうこそくな手段で、いじめが終わると思ったら大間違いだ」



47 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:18:46.59 ID:3NCqnlKz0
まるでそっちが正しい事をしているみたいだ。
姑息なのはそっちじゃないかと言いそうになったが、
ぐっと我慢して、いじめっ子の言葉を黙って聞いていた。


周りでは、いじめっ子の仲間達が僕を逃がさないように円を作り、
にやにやと薄笑いを浮かべていじめっ子の話を聞いている。

話が終わり、いじめっ子が僕との距離を詰める。
それに反応して、周りの円との距離も狭まる。

いじめっ子が僕に殴り掛かろうとして来た。
いつもならここで怯えて目を瞑ってしまい、後は殴られるだけだった。


だけど今は違う。

いつものじじいのとの特訓とあのときの言葉を思い出して、
僕は目を瞑らずに、真っ直ぐにいじめっ子の顔を睨みつけた。
一瞬、いじめっ子がたじろいだのが雰囲気でわかった。

…… 今だ


(#´・ω・`)「うわぁぁぁぁっ!!」

  _
(; ゚∀゚)「……!!」



50 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:21:46.39 ID:3NCqnlKz0
隙をついて、僕は振りかぶりながらいじめっ子に突っ込んだ。


やっぱり怖い。でも、今やらなきゃ。今までのような事が続いてもいいのか。

恐怖を雄叫びとも言えない叫びでかき消し、
臍下丹田に力を込めて、拳に思い切り体重を乗せ、顔に放った。

  _
(; ∀ )「げはっ」


手に、何か固い物が触れる。それを思い切り殴りきる。

そのままの勢いで振り切り、いじめっ子は鼻から血を吹いて後ろに倒れた。
湿った苔まじりの土の上に背中から倒れた衝撃で、いじめっこは苦しそうなうめき声を上げる。

そろそろと手を鼻に当てて、自分から鼻血が噴き出ている事を理解したらしく、
さぁっと 瞬く間にいじめっ子の顔から血の気が引いた。



53 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:23:53.89 ID:3NCqnlKz0
いじめっ子が殴られて顔面蒼白にしているを、僕は一度も見た事が無い。
多分相手も、今までにこんな目にあった事が無いから、相当驚いているんだろう。


僕の予想外の反撃と、ボスがあっけなく倒された様子を見たからか、
周りの円が歪み、いじめっ子の仲間達がうろたえた表情でざわめきだす。
そして一人。また一人と、いじめっ子を置いてみな逃げて行ってしまった。

  _
( ;∀;)「う……うわぁぁぁぁぁん」


最後に一人、ぽつりと残されたいたいじめっ子も、
鼻を押さえて顔と首の辺りを前を真っ赤に染めながら、
ばたばたと逃げて行った。



56 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:26:12.89 ID:3NCqnlKz0
── ──── ──────


(´・ω・`)「僕……いじめっ子をやっつけたよ」

( ФωФ)「そうか。ああいう風には言ったが、行動に起こすのには大変な勇気が必要だったと思う」

( ФωФ)「よく頑張った。ほれ、夏みかんをやろう」


いじめっ子を倒してまず報告しに行ったのは、じじいの所だった。
あれだけの腕力が出せたのは、じじいの木刀素振り特訓の成果である事は明らかだったからだ。

僕が興奮した様子でその時の事を事細かに話すのを、じじいは黙って聞いててくれた。
話し終わった後、じじいは前のように僕のあたまをぐしゃぐしゃとなでた後、
庭先に降りてみかんをもぐと、僕の手の平にぽろんと、二つのみかんを優しく乗せてくれた。



58 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:28:33.58 ID:3NCqnlKz0
しばらくじじいと付き合ってわかった事だったけど、
じじいは嬉しい時や機嫌がいい時に、僕にみかんをくれるらしい。

じじいは無愛想で、普段から喜んでいるのか怒っているのかよくわからなかった。
というよりも、元の顔が厳ついからなのか普段から怒っているように見えた。
目の上下に伸びた二本の傷がそれを余計強調させていたし。

なので、じじい状態変化を表してくれる唯一の手段。夏みかんが二つもあったという事は。
じじいは僕がいじめっ子を倒した事を、相当喜んでくれているらしかった。


僕は、不意打ちとは言え自分がいじめっ子相手の喧嘩に勝った事よりも、
じじいがとても喜んでくれた事に対してなんだか嬉しくなった。



60 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:31:23.20 ID:3NCqnlKz0
そしてその一件以来、僕は暇さえあればじじいの家に入り浸るようになっていた。

じじいをかみなりじじいと心の中で呼んで、避けていた事を忘れる程に僕はじじいによく懐いた
我ながら現金な性格だと思う。都合がいいというか。

まだ遠慮をするなんて事余り考えない年頃だったから、
ああやって毎日じじいの家をお邪魔するなんて事が出来たんだと思う。


(´・ω・`)「こんにちは」

( ФωФ)「こんにちは」

( ФωФ)「丁度今、キュウリを収穫しようと思っていたんだ」

( ФωФ)「よければ手伝ってくれないか」


じじいの家の庭先には、夏みかん以外にもたくさん植物が生えている。

前にも言ったように、しそやよもぎにツユクサやオシロイバナなど雑草と変わらないような物から、
キュウリやトマト、なすといった、簡単な野菜類がそれに混じるようにして生えていた。
そのさらに隙間に、夏みかんを筆頭に様々な木が生えているといった感じだ。



63 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:33:18.48 ID:3NCqnlKz0
僕はじじいから手入れ用の小さなはさみを受け取り、キュウリを手際よく収穫して
じじいが抱えている段ボールの底に丁寧に並べて行く。

じじいの庭は養分が豊富なのか、キュウリは市販の物よりも二まわり程大きい。
とぐろを巻いている物や妙な形のキュウリも多く、そんな物を見つける度にじじいに報告をすると、
じじいは豪快に笑って、僕のキュウリを大物だと言って褒めてくれた。


収穫し終えた後、軒先でじじいとおしゃべりをしながらスイカを食べた。
じじいは、種なら庭先にまんべんなく撒きなさいと言ったので、僕は花壇目指して
勢いよく種を吹き飛ばそうとしたけど、なかなかそこまで届く事は無かった。


( ФωФ)「スイカは好きか」

(´・ω・`)「うん」

( ФωФ)「みかんとどっちが好きだ」

(´・ω・`)「……みかん」


そう答えると、じじいはやっぱりみかんをくれた。



65 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:35:42.38 ID:3NCqnlKz0
蚊取り線香の煙が辺りを漂っている。
そのおかげか、草木が多い割に蚊に刺される事は無い。
なのでいつも蚊など気にせずに時間を忘れて、よく夕方までじじいと話していた。


その日もいつも通り夕方近くまで縁側に腰掛け、色々な事を教えてもらっていた時だ。

どこか遠くの方から消防車の音が聞こえて来た。
じじいはその音を聞くと途端に苦虫をかみつぶしたような顔をして、
僕と話す事をやめて黙りこくってしまった。
じじいのこんな反応を見るのは初めてだ。

不安になった僕は皮だけ残ったスイカを皿に置いて、じじいの顔を覗き込んだ。


(´・ω・`)「……あの?」

( ФωФ)「あぁ、すまない」

( ФωФ)「少し、嫌な事を思い出した」

(´・ω・`)「……?」



67 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:36:14.27 ID:3NCqnlKz0
その日僕は、じじいの目の傷の事を聞いた。

オレンジ色に染まる入道雲と、不安定な動きで飛び回るコウモリを眺めながら、
じじいは悲しそうに、だけど顔は厳ついままで、話してくれた。



70 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:39:49.96 ID:3NCqnlKz0
何十年か前。


じじいがまだ若かった頃、奥さんと一人息子がいた。
奥さんは体が弱くて、その一人息子が物心つく前に、病気で死んでしまった。
じじいは奥さんの死を悲しむ暇がなかった。乳飲み子を抱えてはそう長く悲しんでもいられない。

だからせめて、母無し子だといっていじめられたり、負い目を感じさせぬよう、
心と体の強い子に育って欲しいと思い、僕のように素振りをさせたりして、
清く正しく育てて行こうと思ったそうだ。

一人息子はじじいの期待に応え、成績もよくて運動もでき、
そして父を思いやる優しい性格の少年になったらしい。
だけどある日。



72 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:41:53.82 ID:3NCqnlKz0
じじいが仕事に行っていた時、家が火事になった。
仕事場に電話で連絡が入り、慌てて家へ向かう。
大慌てで帰って来てみると既に火は家中に回っており、とても近づけるような状態じゃなかった。

けれど家の中には、まだ息子が取り残されているという。
じじいは消火しようとしてた近所の人と消防士の静止を振り切り、
水を被って中に入り息子を助けようとした。が。

息子はすぐには見つからず、業火がじじいの行く手を阻んだ。
そして顔に吹き付ける煙と熱風に目をやられ、目を瞑った時に上から瓦礫が落ちて来た。
その熱くなった瓦礫はじじいの顔や頭に容赦なくぶつかって、
その衝撃と肺に入って来た一酸化炭素の中毒でじじいは気絶し


気づいた時には病室だった。
目覚めるや否や看護婦に息子の事を聞いたが、
息子はそのまま帰らぬ人となり……



73 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:42:42.46 ID:3NCqnlKz0
(´・ω・`)「息子さんは……逃げ出せなかったの?」

( ФωФ)「あぁ。なんでも、これを守るようにして背を丸めた形で死んでいたらしい」

(´・ω・`)「これは……」


じじいは桐箪笥の中から何かを取り出した。
黒光りしていただろうそのカメラは、今では少しくすんだ色をしており、
一部は少し焦げてフレームが歪んでいる。


( ФωФ)「息子は多分、これを持って家を逃げようとしたんだろう」

( ФωФ)「だけど普段は私の部屋の戸棚にしまってあったので、すぐには見つからなかった」

( ФωФ)「そしてやっと見つけたはいいが……煙と火に巻かれてそのまま……」


じじいは僕の目の前で立ち尽くしたまま、カメラをねめつけていた。
カメラを握るその指に力が入り、白く色が変わっていく。

いつも以上に固い顔をして、口を真一文字に結んで動かないじじいに、
僕はどうする事も出来ずに、ただ黙っていた。



75 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:44:58.94 ID:3NCqnlKz0
( ФωФ)「私のカメラを取りにいっていたせいで、息子は焼け死んだんだ」

( ФωФ)「こいつが息子を殺したような物だ」

( ФωФ)「私がカメラをあんな場所にしまっていなければ。 こんな物を大事にしていなければ!」

(#ФωФ)「息子は助かっていたかもしれないのに!!」


じじいが、子供を叱るときとは違う、怒り狂った表情でカメラに向かって叫ぶ。
カメラを握る指が先に折れるか、カメラが握りつぶされてしまうんじゃないか
というくらいの勢いで、じじいはカメラを力任せに握りしめた。

じじいが写真を撮らなくなったのは、
間接的にだけど、自分が息子を殺してしまったからだと思っているからなんだ。

だけどそれは違うと思う。
なんでじじいの息子が、じじいのカメラを取りに行ったのか?

じじいと息子、二人きりで生活して来たんだ。
そんな父の、唯一の趣味だったであろう写真撮影。



78 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:49:14.66 ID:3NCqnlKz0
(´・ω・`)「……息子さんは、そんな事を言ってもらうためにカメラを守ったんじゃないと思う」

(#ФωФ)「何?」

(´・ω・`)「きっと、お父さんがカメラを持って写真を撮る姿が凄い好きだったんだよ」

(´・ω・`)「だからお父さんが大事にしてた、カメラを持って逃げようとしたんだ」

(´・ω・`)「いつも通り、写真を撮って嬉しそうなお父さんの顔が見たかったんじゃないかな」

(´・ω・`)「だから写真を撮らずに、箪笥にしまいっぱなしなのは息子さんが可哀想だと思う」



79 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:49:33.24 ID:3NCqnlKz0
(´・ω・`)「息子さんは、カメラを憎むべき対象として残したんじゃない」

(´・ω・`)「自分のお父さんに、使って欲しいから守り通したんだ」

(´・ω・`)「息子さんが命をかけて守ったカメラなんだから、使ってあげた方が供養になると思う」

( ФωФ)「……」

(´・ω・`)「なんか……勝手な事言ってすいません」

(´・ω・`)「帰りますね」


じじいの指が、元の色に戻って行った。
じじいは立ち尽くしたまま動かない。僕を見つめて、目を細めたまま動かない。

大人であるじじいに色々と生意気な口をきいてしまったと思った僕は、
出されたお茶やみかんのお礼を言った後そそくさと玄関に向かって、
じじいの家を後にした。



83 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:51:35.91 ID:3NCqnlKz0
次の日に家の前を通った時、じじいがぼそりと謝ったのを聞いて、
あぁ、この件はもう終わりなんだな、と僕も理解して、それ以上何も言わなかった。

それから数日はなんとなく気まずかったけど、
僕が勝手に気まずさを感じていただけなのか、じじいは僕が見る限りは普段通りだった。



85 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:53:14.61 ID:3NCqnlKz0
じじいとはそんな感じで一年程付き合いが続いていたが、
ここに来て二度目の夏休みに入った頃に、僕はまた引っ越す事になった。


相変わらず友達は一人も出来ていなかったけど、
いじめられる事は無くなっていたし、僕から出ていたであろうなんだか近寄りがたかったオーラも消えたのか、
用事などと言った義務的な内容以外で話しかけてくれる人も出来ていた。


なのでもう何度も繰り返して慣れているはずの引っ越しが、今回は少し辛かった。

そして、じじいと別れなくてはいけないという事実がもう目の前に迫って来ている事で、
僕はこの事をじじいに伝えなくてはいけないはずなのに、
引っ越しの日が近づけば近づく程、余計に言いにくくなっていった。



89 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:54:30.97 ID:3NCqnlKz0
そして、引っ越しの前日。


夕方、入道雲が怪しい色となって流れて行く中、僕とじじいはいつも通り縁側に座って、
特にこれといったことを喋る訳でもなく、なんとなくそこにいた。

いつもなら、沈黙があってもなぜだか気にならない。

でも今日はその沈黙の中に変な緊張感が混ざっているようで、
僕は落ち着きなく貧乏揺すりをしていたし、
じじいもその不穏な空気を察知したのか、
なんだか話しかけにくい空気をいつも以上に醸し出していた。



90 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:55:22.96 ID:3NCqnlKz0
(´・ω・`)「……」

( ФωФ)「……もう一年か」

(´・ω・`)「……」

( ФωФ)「お前と出会ったのは」

(´・ω・`)「……」

( ФωФ)「……夏休みに入っても、私の家に遊びに来なさい。勉強を教えてあげよう」

( ФωФ)「だがこんな老いぼれと家で勉強するより、家族と海に行ったりするのもいいかもしれんな」

( ФωФ)「遊び過ぎは駄目だぞ。夏休みが終わったら心機一転、心を入れ替えて頑張りなさい」

(´・ω・`)「……」



95 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:58:17.39 ID:3NCqnlKz0
じじいは入道雲を見上げながら、独り言のように呟く。
じじいにも、僕には友達がいない事をそれとなく話しはしていた。

だからじじいは僕に友達関係の話題を振ってくる事も無かったし、
友達を作れと強要してくる事は無かった。
だけどじじいの言葉を聞くと、じじいも話はしない物の
僕に友達が出来ない事を心配していたようだった。

けどそんな事を表に出さずに、
自分のやりたいように、自分が正しいと思えばそれもいいんじゃないか と言って、
僕の頭をくしゃくしゃとなでてくれるじじいの気遣いが
嬉しくもあり、少し悲しく感じられた。



96 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 01:59:18.44 ID:3NCqnlKz0
それと同時に様々な思い出が、僕の頭の中から噴出してきた。
その思い出を宙に浮かべながら、あのじじいの手の感触も思い出す。

もうじじいに頭をなでてもらう事も無いんだと思うと僕の目頭が熱くなって、
じじいに泣いている所は見られたくないのに僕の涙腺は緩み続けて、
ぼろぼろと涙がこぼれて頬を伝い、ズボンに小さな染みを作り続けた。


( ФωФ)「……」

(´・ω・`)「……僕、引っ越すんだ」

( ФωФ)「……」

(´・ω・`)「もう……明日には……遠い街に行く」

(´;ω;`)「ギリギリになってからこんな事言って、ごめんなさい……」

(´;ω;`)「でもこの事を言っちゃうと現実から逃げれなくなって」

(´;ω;`)「このまま言わなければ、ここに居続ける事もできるような気もしてた」

(´;ω;`)「だけど……」



98 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:00:27.51 ID:3NCqnlKz0
甘えだってわかってる。
じじいにこの事を言ったって、どうする事も出来ないのはわかってる。

僕の口から、心と口が直接繋げられたように色々な思いが流れ出てくる。
行きたくない。離れたくない。別れたくない。
もうじじいと話せないなんて、信じたくない。


(´;ω;`)「……」

( ФωФ)「……」

(´;ω;`)「……いやだ」

(´;ω;`)「……行きたくない」

(´;ω;`)「ずっと、ここでこうやって話していたい」

(´;ω;`)「……別れたくない」


すがりつくようにじじいの浴衣を掴んで
嗚咽が止まらないまま話す僕のわがままを、
じじいは黙って聞いていてくれた。



101 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:01:37.48 ID:3NCqnlKz0
( ФωФ)「出会いもあれば、また別れもある」

( ФωФ)「始まりはそれと同時に終わりへの第一歩でもある」

( ФωФ)「別れたくない。それは私も同じ思いである」

( ФωФ)「だが一生の別れという訳でもあるまい」

( ФωФ)「生きていれば、いつだって。何度だって出会う機会はあるのだ」


こうしてじじいに触れて声も聞くのも、もう最後なのかもしれない。
くしゃくしゃと不器用そうに僕の頭をなでる、
じじいの別れたくないという言葉を聞いて、僕の涙は量を増す。


(´;ω;`)「……ねぇ、また会える?」

( ФωФ)「きっと会えるさ。お前が大人になったら、自分の力で私に会いにこい」

( ФωФ)「私はずっと待っている。お前の成長を見届けるまで死ねないからな」

(´;ω;`)「……わかった。僕が大人になったら、またここに戻ってくる」



106 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:03:00.84 ID:3NCqnlKz0
僕は顔をあげ、滲んだ視界の奥にじじいの目を見る。
じじいは最後に僕を優しくなでてくれた後立ち上がって、
桐箪笥の中からいつか見たカメラを取り出した。


( ФωФ)「最後に写真を撮ろう」

(´・ω・`)「写真……? もう撮らないんじゃ」

( ФωФ)「前にお前に言われた言葉に、私は今まで抱いて来た憎しみが、
      果たして本当に息子が望んでいた事だったのか考え直したのだ」

( ФωФ)「あれから撮ってみようと思って、手入れだけはしてきたんだが……なかなか勇気が出なくてな」

( ФωФ)「だけど。もう一度撮るときは、最初に撮るのはお前にしようと決めていた」


そういうと、じじいは僕の手を取り草ぼうぼうの庭へ導く。
そして僕をみかんの木の前に立たせると、カメラのタイマーを起動させて縁側に置いた。

下駄で慌ただしく僕の横に戻って来て、真っ直ぐにカメラを見つめる。
しばらくすると無駄に大きいシャッター音と、
薄暗くなって来た庭中に届くような、まばゆいフラッシュがたかれた。



107 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:03:50.53 ID:3NCqnlKz0
( ФωФ)「これでよし」

( ФωФ)「連絡先を教えてくれないか。写真を、お前の新居に送ってあげよう」

(´・ω・`)「うん……」


僕はなんとか新居の住所を思い出して、
じじいの用意した小さなメモ用紙にたどたどしく書き込んで行く。

書き終わったメモをさらに小さく折り畳んでじじいに渡すと、
じじいは曖昧な笑い方じゃなくて、はっきり笑顔だとわかる表情を作って、僕に話しかけた。


( ФωФ)「絶対に忘れはしない。またお前が大人になった時に、ここで会おう。約束だ」



109 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:04:39.33 ID:3NCqnlKz0
・ぼくとじじい



112 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:06:17.87 ID:3NCqnlKz0
────────────



それから僕は、遠い街で大人になった。

今では立派な社会人。毎日仕事に行って、
職場の女性とお付き合いなんかしたりして。
人付き合いを面倒くさがるくせは無くなり、
特に問題もなく、人間関係は円滑であり、仕事も上場。

忙しいけど、充実した毎日を送っていた。



だけど僕は忘れていなかった。じじいの言ったあの言葉。


( ФωФ)「絶対に忘れはしない。またお前が大人になった時に、ここで会おう。約束だ」



118 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:09:24.27 ID:3NCqnlKz0
あの後じじいが送ってくれた封筒には、写真と小さな手紙が同封されていた。


新しい地に旅立って行った僕への応援の言葉と、
毎日の鍛錬を忘れるなかれ。という堅苦しいお言葉。

臍下丹田の事も書いてあって、番長に絡まれたときはその事を思い出せ。
なんて、じじいにしては少しおかしい言葉も書き込まれていた。
番長なんていなかったが、多分じじいは本気で言っていたんだろう。


その手紙は今でも大事にとってあるし、写真も写真立てに入れられて飾られている。
その二つを見れば、今でもあの固い顔と、低い雷鳴のような声が思い出せる。

そして僕は夏のある日、じじいに会いに行く事を決意した。
生活も安定しそれなりの収入もある。有給休暇もとった。準備は万端だ。


電話番号はわからないが、住所は封筒に書いてあったのがある。
その住所を頼りに、僕は小学生の時に一年間住んでいた街に戻って来たのだった。



126 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:11:07.41 ID:3NCqnlKz0
(´・ω・`)「……ここだ。確かにここだ」


すっかり古くなり、塀にひびが入ったじじいの家。
玄関先には『杉浦』の表札がかかっており、
確かにここだったはずだけど、一応自分の記憶と住所を照らし合わせて確認する。
心臓が脈打つのを感じながら、僕は家のドアをノックした。

だが返事は無い。
何回か試してみたけど、物音一つ聞こえない。
庭の方に回ってみると、庭は荒れ放題の状態で放置されており、
名も無い草がびよびよと蔓延っていて、かつてじじいの庭のだったという名残と言えば、
今なおみかんを作り続けている、健気な夏みかんの木だけだった。



131 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:12:11.83 ID:3NCqnlKz0
もう何年も人の手が入ってない庭を見て、僕の頭に嫌でも悪い想像が浮かぶ。
……じじいはもう、死んでしまったとか?


いてもたってもいられなくなり、庭から出るとすぐさま隣の家のインターホンを鳴らした。
そこの人の話によると、数年前にじじいは老人ホームに入ってしまったらしい。
じじいの遠い親戚が、じじいを介護をする人がいない事を理由に、
老人ホームに押し込んでしまったのだ。


介護? 老人ホーム? 取り合えず死んだ訳では無さそうだ。


そこの人にじじいの入った老人ホームの名前と住所を教えてもらい、
車を飛ばしてさっそくそこに行く事にした。



133 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:14:26.11 ID:3NCqnlKz0
──────────── ────── ───


('、`*川 「へぇ。杉浦さんの知り合いなんですか」

('、`*川 「杉浦さん、親戚の方も余りお見舞いにこなくて……」

('、`*川 「お知り合いの方で杉浦さんに会いに来たの、あなたが初めてです」


たどり着いた老人ホーム、『美府の森』の駐車場に車を止めて、
僕は受付でじじいの名字を述べるとすぐにこの人が案内をしてくれた。

なんというのかな、こういうひ人はヘルパーというのだろうか。
淡いピンク色のエプロンをつけて、髪をバレッタで止めた女性の後を、たわいもない会話をしながらついてゆく。
病院のようだけど、すれ違う人はお年寄りしかいない。当たり前か。



136 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:16:27.23 ID:3NCqnlKz0
二階の廊下は建物の北側に面しており、外は障害物が無いため、北側にも限らず
窓からは初夏の日差しがさんさんと入り込んで来ている。
だけど廊下は冷房が効いているので、あまり熱さは気にならない。

それよりも眼下に広がる田んぼと所々にある小さな林を眺めながら、
庭から離れる事になってしまったじじいも、またこれだけ自然が広がる場所に来れて
嬉しいだろうな、なんて思ったりしていた。


外に気を取られていると、いつのまにか部屋にたどり着いたようだった。
廊下の一番端、東側の部屋の入り口には、『杉浦』と名前が書かれた札がついている。
僕は久しぶりに会うじじいの姿を想像すると共に、少し緊張しながら、
ドアを開けた女性の向こうに、じじいの姿を確認した。



140 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:19:14.03 ID:3NCqnlKz0
(ヽФωФ)


(´・ω・`)「……」


そこには変わり果てた姿のじじいが、
ベッドから起き上がる状態で座っていた。

頬はこけて、白髪は増えて、今では髪の毛全部が真っ白け。
背中は猫背気味になっていて、そんな上体を起こして
窓の外に広がる田んぼと、ちょうどこの部屋の下にある、中庭の木々を眺めている。

僕や女性が入って来た事には気づいていないのか、なんの反応も示さない。
ベッドの横には小さな椅子と箪笥が置いてあり、
箪笥の上にはかごに入ったみかんが数個佇んでいた。



145 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:21:02.79 ID:3NCqnlKz0
(´・ω・`)「じz……いや、杉浦さん」

(ヽФωФ)「……」

(´・ω・`)「お久しぶりですね」

(´・ω・`)「僕は大人になりました。そして、自分の力であなたに会いに来ました」

(ヽФωФ)「……?」

(´・ω・`)「……杉浦さん?……」


じじいは僕の方に顔をやったけど、僕を見つめてはいないように思えた。
僕を通り越して、そのさらに先の何かを見ているようだ。

余りにも反応がないので、壁際に立っていたヘルパーさんが
じじいの耳元で僕の来訪を丁寧にじじいに告げてくれた。



150 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:23:22.25 ID:3NCqnlKz0
('、`*川 「杉浦のおじいちゃーん。えっと……お客さんが会いに来てくれましたよー」

(ヽФωФ)「……?」

('、`*川 「もしかしたら、あなたの事覚えてないのかもしれないわねぇ」

(´・ω・`)「え?」

('、`*川 「あれ、あなたなんで杉浦さんがここに来たか知らないの?」

(´・ω・`)「え、えぇ。詳しい事は」

('、`*川 「杉浦さん、ボケちゃったのよ」

('、`*川 「今では誰彼構わず人を捕まえて、奥さんの名前を呼んだり息子さんの名前を呼んだり」

('、`*川 「もともとはしっかりした人だったらしいんですけどね」


ヘルパーさんがそう言った所で、じじいがぶつぶつと呟きだす。
何を言っているのかわからないけど、僕は耳を近づけて必死に聞き取ろうとする。
もしかしたら何か大事な言葉なのかもしれない。僕に何かを伝えたいのかもしれない。

だがその言葉は僕の予想とは違い、支離滅裂で何を言いたいのかまったくわからなかった。



157 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:26:38.50 ID:3NCqnlKz0
(ヽФωФ)「あ、あれがそうだよ。みかん。お前、みかん好きだろう」

(ヽФωФ)「庭に植えて……な。これ。うまいから食ってみろ……」

(ヽФωФ)「美味しいか……もっと沢山食べれるといいな……」

(ヽФωФ)「よかったなぁ……そうだ、シャキン。冬みかんも植えようか……」

(ヽФωФ)「そうすればきっと……いつでも食べれるように……」


変わり果ててしまったじじいの姿に僕は泣きそうになったがなんとかこらえて、
懐からあの写真を取り出す。じじいと、僕がみかんの木の前に立っているあの写真。

変に顔を歪めたじじいと、泣きはらした腫れぼったい目をさせた僕。
なんだか不思議な組み合わせだけど、僕はこの写真を大層気に入っている。
この写真を見せれば、じじいも僕の事を思い出してくれるかもしれない。



164 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:29:01.43 ID:3NCqnlKz0
(´・ω・`)「杉浦さん。これ、覚えてます? 昔あなたと撮った写真です」

(ヽФωФ)「……! おおお……」


その写真をじじいの前にやると、じじいは僕に対して初めて反応を示した。
僕の方を見た後、脇にあった台を兼ねている小さな箪笥の中から何かを取り出す。

それは、僕が持っている物と同じ写真。
その写真を、骨張った指で指しながら嬉しそうに僕に語りかけてくる。


(ヽФωФ)「これは……私の自慢の息子なんです」

(ヽФωФ)「シャキンと言いましてね……。勉強もできて……運動も出来て……優しい子なんです」



違う。

これは僕だ。じじいの息子さんじゃない。



166 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:30:24.69 ID:3NCqnlKz0
(ヽФωФ)「みかんが好きで……植物が好きで……」

(´・ω・`)「……違う」

(ヽФωФ)「……?」

(´・ω・`)「……それは僕だ。息子さんは、もう死んだんだ」

(ヽФωФ)「……? 息子は今も生きています」

(ヽФωФ)「今はきっと、外に遊びに行っているのでしょう」

(´・ω・`)「……気づいて下さい。思い出して下さい」

(´・ω・`)「息子さんは、火事でお亡くなりになりました。奥さんは、病気で死にました」

(ヽФωФ)「……そんな事を言わないで下さい」

(ヽФωФ)「誰だかわかりませんが、息子は生きているし、妻は側で微笑んでいる」

(ヽФωФ)「死んでなどいない」



172 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:34:12.77 ID:3NCqnlKz0
じじいは僕を睨みながら、ベッド脇にある椅子を震える指で指し示す。

きっとじじいには、この椅子に座りじじいに向けて微笑む奥さんが見えるのだろう。
眼下の庭で、元気に走り回る息子さんが見えるのだろう。


ボケてしまったじじいは、今も息子と奥さんが生きていると思っているんだ。
何も思い出させないで、このままそっとしてあげる方が今のじじいにとって幸せな事なのかもしれない。

だけど、僕を忘れてしまっているという事実を、目の前に突きつけられるのはとても重かった。
あれだけ世話になり、話をし、短期間とはいえ、同じ時間を過ごしたじじい。


本当に僕の事を忘れてしまったのだろうか。



175 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:36:47.57 ID:3NCqnlKz0
(´;ω;`)「……」

(ヽФωФ)「……なぜ泣くのです。何が悲しいのです」

(´;ω;`)「あなたが、僕を思い出してくれない事が悲しいのです」

(´;ω;`)「思い出して下さい。僕の事を、思い出して下さい」

(ヽФωФ)「……すいません。私はあなたを知りません」

(´;ω;`)「……僕は、ショボンです」

(ヽФωФ)「……!」


申し訳無さそうな顔をしていたじじいが、
今僕の名前を言った時、わずかに眉を動かした。
まだ望みはあるかもしれない。僕はそのままじじいの返事を待たずに、言葉を放つ。



179 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:38:02.24 ID:3NCqnlKz0
(´;ω;`)「僕はショボン」

(´;ω;`)「あなたの家に忍び込もうとしました」

(´;ω;`)「あなたに手ほどきを受け、いじめっ子を追い払う事も出来ました」

(´;ω;`)「あなたに様々な植物の名を教えてもらいました」

(´;ω;`)「あなたは喜ぶと僕にみかんをくれました」

(´;ω;`)「そして僕の頭を撫でてくれました」

(´;ω;`)「ここまで言っても! あなたは思い出す事が出来ないのですか!」

('、`;川 「ちょっ 落ち着いて下さい!」


僕は思わず怒鳴り、じじいのベッドに突っ伏す。
後ろからヘルパーの女性が僕の肩をつかみ、落ち着かせようとしてくる。



184 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:39:25.96 ID:3NCqnlKz0
でも僕は、そのままじじいの布団にすがりつき泣き続ける。
この年になっても、僕の泣き癖は治っていない。
感情の高ぶりを押さえる事が出来ない。

涙で布団を濡らしながら、僕は叫ぶ。


(´;ω;`)「思い出して下さい!」

(´;ω;`)「僕は、僕はショボンです!」

(ヽФωФ)「……」


ベッドに伏せているため、じじいの顔は見えない。今どんな顔をしているかもわからない。
でも、ふと僕の頭に心地よい重さの何かが乗る感触がした。



187 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:40:48.11 ID:3NCqnlKz0
(ヽФωФ)「……泣かないで下さい」

(ヽФωФ)「あなたも、男の方でしょう。そう人前でむやみに泣くものではありません」

(ヽФωФ)「何が悲しいのか、私にわかってあげる事は出来ません」

(ヽФωФ)「……それは、私が原因なのかもしれません」

(ヽФωФ)「……すいません……すいません……」


じじいは謝りながら、僕のあたまをくしゃくしゃと撫でてくる。
少し力は弱いけど。手の平が小さくなった気がしたけど。

それはまぎれもなく、じじいの手の平で。



192 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:43:18.19 ID:3NCqnlKz0
(´;ω;`)「……」

('、`;川 「大丈夫ですか?」

(´;ω;`)「すいません……お騒がせしました。もう帰ります」

('、`*川 「本当に、もういいんですか?」

(´;ω;`)「病気ですし。思い出せないのも仕方がありません」


じじいに頭を撫でてもらった事で、僕は少しだけ理性を取り戻した。

そうだ、これは病気なんだ。
思い出せなくても仕方が無い。僕が怒鳴ったからって、じじいの記憶が蘇る訳じゃない。
ただ小さくなって謝るじじいを見て、僕はこれ以上こんなじじいを見続ける事が嫌になって。

服を整え涙を拭い、床に置いておいた荷物を持って病室を出て行こうとする。
困り顔の女性の横を通り過ぎ、部屋を出て行こうとした時だ。
後ろから、しわがれた細い声がした。

じじいが、僕を呼び止めたのだ。



198 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:45:27.77 ID:3NCqnlKz0
(ヽФωФ)「……待って下さい」

(ヽФωФ)「……せっかく来てくれたのです。これを差し上げます」

(ヽФωФ)「これを食べればきっと、涙も止まるはずです」


折れてしまいそうな上体を伸ばし、ベッドわきのみかんを手に取り、
僕の方に差し出してくる。
両手に乗った、ふたつのみかん。

僕はそのみかんをそっと受け取り、皮をむく。
口にほおばると、柑橘系の匂いが鼻を通り抜けて、
果肉がはじける感覚とじ、ゅわりと甘い蜜が舌の上に滲み出てくる。

少し味は違うし、こっちの方が甘いけど。
小学生の頃にじじいに貰った、みかんの味を思い出した。


(´;ω;`)「……美味しいです」

(ヽФωФ)「それはよかった」


じじいは顔を歪めて、曖昧に微笑んだ。



205 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:49:51.58 ID:3NCqnlKz0
二つもらったみかん。そうだ、その意味は


(ヽФωФ)「……あなたが泣いてばかりなのを見て、何かを思い出しかけています」

(ヽФωФ)「遠い昔の……何かを」

(´;ω;`)「……」

(ヽФωФ)「あなたの事は、なぜだか嫌いではありません」

(´;ω;`)「……はい。必ず、またここに来ます」



206 名前:愛のVIP戦士@全板人気トナメ開催中[] 投稿日:2008/06/15(日) 02:50:18.95 ID:3NCqnlKz0
(´;ω;`)「今度は、絶対に僕の事を忘れないで下さい。約束です」

(ヽФωФ)「……忘れません。忘れないようにします」

(ヽФωФ)「今度あなたが来るときは、みかんを用意して待っていますから」

(ヽФωФ)「そう遠くないうちに……是非ここに遊びに来て下さい」


(´;ω;`)「はい。あなたが忘れないうちに。僕が覚えているうちに」

(´;ω;`)「絶対に……」



おわり

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[ 2013年09月08日 14:27 ] カテゴリ:単発スレ | TB(0) | CM(0)
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